おしっこに行きたくなると我慢ができない
過活動膀胱とは
過活動膀胱(OAB:Overactive Bladder)は、急に起こる我慢出来ないような強い尿意(尿意切迫感)を主症状とする疾患です。
尿意の切迫感が必須症状で、通常は頻尿や夜間頻尿を伴っており、場合によっては切迫性尿失禁を伴います。つまり、尿意の切迫感があれば、過活動膀胱が疑われます。
過活動膀胱の頻度
日本では排尿障害に対する疫学調査が行われており、過活動膀胱は40歳以上の男性の7人に1人が、女性では10人に1人の方が過活動膀胱に罹患していることが示されています。また、その約半数が尿失禁(切迫性尿失禁)を伴うことも示されています
過活動膀胱の原因
①神経性:中枢神経の障害で起こるもの
脳→脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、認知症など
脊髄→脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、脊髄腫瘍、頸椎症、後縦靭帯骨化症、脊柱管狭窄症などの脊髄の神経疾患など
②非神経性:前立腺肥大症、加齢による膀胱機能の低下、骨盤底筋障害で起こるもの
③特発性:明らかな原因疾患のないもの
過活動膀胱の検査・診断
過活動膀胱は症状に基づく疾患ですので、「尿意切迫感」の症状があれば過活動膀胱と診断されますが、他の疾患の鑑別のために下記の検査を行います。
- 尿検査:血尿、炎症、腫瘍細胞の有無
- 尿流量測定:排尿状態を確認します。
- 超音波検査:残尿の有無、膀胱や腎臓の形態、結石や腫瘍の有無
- 排尿記録:排尿時刻、排尿量、尿意の強さを記録することで、日常の詳細な排尿状態をチェックします。
- 過活動膀胱症状質問票OABSS:質問3の点数が2点以上で、全質問の総合点数が3点以上であれば過活動膀胱と診断されます。
総合点数が5点以下は軽症、6から11点は中等症、12点以上は重症と判定されます。
過活動膀胱の治療
行動療法
行動療法は低侵襲で副作用もなく他治療との併用もできます。
1) 生活指導
- 1日の尿量に合わせて過剰な水分摂取を控える。
- カフェイン摂取を控える。
- 外出時にトイレの位置を確認しておく。
- 外出時などは少し早めにトイレに行く。
- 時間に余裕を持って行動する。
- トイレ環境を整備する。
- 脱ぎやすい服にする。
2) 膀胱訓練(おしっこを溜める練習)
膀胱訓練は少しずつ排尿間隔を延長することにより膀胱容量を増加させる訓練法です。
尿漏れしないためには早めにトイレに行く工夫も必要ですが、おしっこが溜まっていない状態で過度にトイレを気にするようになると膀胱がおしっこを溜めることができない状態になってしまうため、おしっこを膀胱に溜める練習も大切です。
具体的な方法としては、
①排尿計画を立てる。
②短時間から始めて徐々に15~60分単位で排尿間隔を延長する。
③最終的には2~3時間の排尿間隔が得られるように訓練をすすめます。
3)骨盤底筋体操
骨盤の底にある筋肉を鍛える体操で、腹圧性尿失禁だけでなく、切迫性尿失禁にも効果があると言われています。
腹筋に力が入らないように膣や肛門を締めるようにする方法です。
骨盤底筋体操は最低でも3ヶ月は継続する必要がありますが、副作用がないため安全です。
特に女性において有用と言われています。
薬物療法
1) 抗コリン薬
膀胱の収縮を抑えて、尿意切迫感も改善する薬剤です。膀胱の筋肉をリラックスさせて、膀胱が勝手に収縮してしまうのを抑えて、尿を溜められるようにします。
副作用:口渇や便秘がしばしば見られます。また閉塞隅角緑内症の方には使用できません。
薬剤名:ポラキス、バップフォー、デトルシトール、ベシケア、ウリトス、ステーブラ、トビエース、ネオキシテープ(貼付剤)など
2) β3受容体作動薬
尿を溜める際に膀胱の広がりを促進する薬剤で、尿意切迫感も改善します。
副作用としての口渇や便秘の頻度は低いと言われています。
薬剤名:ベタニス
その他の治療
行動療法、薬物療法を行っても改善が得られない難治性の過活動膀胱の場合に行われることがあります。
1)電気刺激治療・磁気刺激治療
電気刺激療法(干渉低周波療法)や磁気刺激療法は、電気や磁力により骨盤底の筋肉や神経を刺激するもので、腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁に対する有効性が示されています。
2)ボツリヌス毒素の膀胱壁注入治療
薬物治療で改善が得られない過活動膀胱(切迫性尿失禁)に対して、米国や欧州などで広く行われている治療で、日本では2020年4月に保険適応となりました。
3)仙骨刺激治療
電極を埋め込み、会陰部や骨盤を支配する仙骨神経に電気刺激を行う治療です。日本では2017年9月に保険適用となった新しい治療法です。